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Have a break
ふとできた時間
2月の終わりの金曜日。
全国ニュースになるほどの
大きな電車事故で、
思いがけず、
不自然な拘束時間が
できてしまいました。
いつになるかわからない
復旧と、
ホームに次々と
増えていく人の数。
高まっていく
不穏な空気感に
包まれていくのが嫌で、
思わず駅を出てしまいました。
今までなら、がまんして
じっと次の電車を
待っていたけれど
そうすることに
言いようのない
息苦しさを覚えて、
そこに佇むことが
できなくなっていました。
駅を出て、ふとできた時間。
どう過ごすかの術を
私は持ち得ていませんでした。
苦手な時間つぶし
時間を有効に使う、
ということが
私はとても苦手です。
時間にとらわれて、
無味なひと時を過ごす、
そんなことがよくあります。
けれど、そのときは、
足が自然に
光のある方に動いていました。
立ち止まったのは
緑に覆われた
小さな小さなカフェ。
店の前の通りを
通り過ぎることは多くて、
気になっていたけど、
入ったことがないお店でした。
あぁここで、少し休憩しよう。
そう思って、
ドアを開くと、
やわらかな笑い声が
聞こえてきました。
アットホームなお店、
…苦手だな…
そう思いながら、
勧められるまま
席に座りました。
雨だから優しく
“雨だから、優しくするといいよ”
不思議なことばと一緒に、
メニューを渡されました。
そうか、雨だから、
自分に優しくしたくて
駅を出たのかもしれない、
“今日はアールグレイのクリームが
上手にできたんだよ”
うれしそうに、奥さんが作った
ケーキのお話をしてくれる
ご主人のお話に聞き入って、
勧められるままに、
普段ならこの時間には
絶対に口にしない
ケーキセットを頼んでいました。
運ばれてきたケーキと
湯気のたつ
淹れたてのコーヒーは、
そんな私の戸惑いや躊躇を
消しとばしてくれました。
あ、おいしい。
ケーキの甘さとともに
隠れていた緊張が、
細やかに揺れて
ほろほろとほぐれていく
私の中にいる、
勇敢な小人たちが
力を抜いた、
そんな瞬間を
感じることができました。
Have a break
そんな言葉を思い出しながら、
やっといつもの自分が
戻ってきたような気がしました。
あ、がんばれそう。
そう思えて、また駅に向かいました。
- 丸谷 香(まるたにかおり)
精神保健福祉士/社会福祉士/公認心理師
メンタルコーチ。元大学病院のMSW。就労・児童および産業分野でソーシャルワーク、心理カウンセリングなどに従事。
現在は、経営者、個人事業主、専門職向けのコーチングのほか、障害福祉事業所の組織開発、対話型発達障害研修などを行う。
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