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ファーザーに思うこと

父の日

 

今日は父の日です。

私にとっては5回目の

父のいない、父の日になりました。

 

母の日に贈るものは

いつもあふれるほど

思い浮かぶのに、

 

父の日に渡すものは

毎年、知恵を絞って考えて、

やっとの思いで決めていました。

 

不思議なもので、

なぜかいなくなってからは

自然に頭に浮かんでくるようになりました。

 

父の日、誕生日、命日。

 

これがほしい、あれを食べたい、と

まるで、父が空から

メッセージを送っているかのように。

 

も〜、お父さんは〜!

と、半ば笑いながら、

頭に浮かんできたものを

仏壇にお供えしています。

 

ファーザー

 

先日、今話題の映画、

ファーザーを見に行きました。

 

当事者の目線で

認知症の世界を描いた

話題作です。

 

映画は認知症を患う男性の、

おそらくごく一般的な日常が

映し出されていました。

 

けれど、それが

とても不安定で脆くて、

観ている私の方が不安を抱くほどでした。

 

場面が切り替わるたび、

登場人物が入れ替わり、

一体、誰が誰で、何が本当で、

何が嘘なのか…。

 

観ている間、ずっと混乱して、

わからなさに苛立ちを覚え、

頭の奥の方が痒くなる感覚さえありました。

 

記憶と幻想の境界がゆらいで

大切にしていたものが

ポロポロと手のひらから

こぼれ落ちていって、

 

執着した想い出と

限りない愛憎が混濁して、

理解できない表出をしてしまう。

 

自分の中では

理屈のある抵抗と反論が

相手には伝わらなくて

 

それがより症状を助長させてしまう。

 

認知症の人の世界に

想いを馳せながら、

 

思い出を失うことと

家族の絆がねじれていくことに

抗えない怖さを感じました。

 

家族として

 

私の父は

認知症ではありませんでした。

 

けれど、

思いのほか早くきた人生の終盤で、

病状からくる易怒性や

時におとずれる記憶の混乱で

 

私たち家族が

わからなさを覚えたことが

幾たびかありました。

 

そんな父を否定し、

諭すように話しかけ

きつい言葉をかけることが

あったことも事実です。

 

けれどあのとき、

父が見ていた景色は

こんなふうだったのかもしれない、

 

この怖さの中で、

あの混乱の中で、

それでもなお、自分を保とうと

必死で話しかけていたのかもしれない、

 

いろんな場面の

父の姿が浮かんできて

その思い出が

涙で覆われてしまいました。

 

さみしさを映し出すもの

 

映画は、

さすが外国のお家だったので

壁にたくさんの絵や

 

家族の写真が飾られて、

それが豊かな人生を彩っていました。

 

でもそれが、

記憶の薄れと同じペースで、

ただの白い壁になり、

何もない部屋になり、

 

色のない世界に

かわっていきました。

 

そのことが何よりも私に

空虚感と喪失感を

突きつけました。

 

亡くなる前、

父のベッド周りが

家族からの手紙や絵葉書で

 

彩られていたことが

画面と重なり、

私の救いになってくれました。

 

ファーザー。

とてもいい映画でした。

もしよかったら見てみてください。

https://thefather.jp/

 

今日は父を思い出す日。

父の好きだった海を見て

リクエストされたお土産を買って。

 

 

丸谷香

丸谷 香(まるたにかおり)

精神保健福祉士/社会福祉士/公認心理師

メンタルコーチ。元大学病院のMSW。就労・児童および産業分野でソーシャルワーク、心理カウンセリングなどに従事。
現在は、経営者、個人事業主、専門職向けのコーチングのほか、障害福祉事業所の組織開発、対話型発達障害研修などを行う。

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